2012年11月6日火曜日

「永遠の命」


この四角い箱と外の世界をつなぐ唯一の窓
かつてはここから顔を覗かせていた子も孫も
今は枯れ木のように老いさらばえて
私と同じように生命維持装置の中に横たわっている

遠くのほうで風が唸っているのは錯覚で
風の音の記憶が脳内で勝手に再生され続けているにすぎない
耳は200年ほど昔に壊れてしまった
匂いも、肌を通しての刺激も、感じなくなってから久しい
味覚に関してはまだ機能しているかもしれないが
もう300年も食事をしていないのでわからない

そしてついさっき、私の中の決定的な何かが切れて
もう決して晴れることのないであろう闇が目の前を覆った
外の世界から隔離された、完全な肉の塊になってしまったのだ

音もない、光もない
何かしらの理由で、左腕の管から補給される養分が滞るまで
永遠の闇の中を、意識だけが彷徨い続ける

これは棺
そう、プラグに繋がれた棺桶だ

2012年10月3日水曜日

「巻貝」




貝殻に設けられた
たったひとつの出口から外を眺める
あれがないか確認するために

霞がかった白い世界
その滲んだ輪郭の隙間いっぱいに
私をみつめる夥しい数の眼光がひしめく
その眼光の怖ろしさ故に
私はこの貝殻から出られない

私は視線で揺れ動く貝殻の鍵を閉めた
貝殻の中は暖かく
陽光を受けて虹色に満たされている
またここに帰って来られた安堵から微笑みがこぼれた
そして螺旋を描く回廊の突き当たりで
膝を抱えたまま血が吹き出すまで爪を噛んだ

2012年10月2日火曜日

展示についての告知


10月26日(金)
北堀江のカフェ「シャルボン」で、音楽、写真等のイベントします。
私は詩文で参加しますので、ぜひ遊びに来てください。

19:00 OPEN ~ 終電まで
Entrance : ¥0(お食事代のみ)

詳細はこちらのHPで。
http://roots-connection.com/the-five-senses/

2012年8月30日木曜日

「丘」


三日月の形に窪んだ湾を包み込む丘は
地平の果てまで箱たちによって埋め尽くされている
箱はどれも一辺一mほどの大きさで
研ぎ澄まされた刃物のような美しい角をもっている

丘へやってきた一台のダンプカーは
荷台いっぱいに積まれた箱をぞんざいに投げ出し
砂塵を巻き上げて走り去っていく
その後にはまた
箱の間をすり抜ける潮風のざわめきだけが残される

それは何の前触れもなくやってくる
浜辺にひしめき合う箱のうち
エネルギーを蓄えたものはにぶい光を放つようになる
その光は遠くに見える灯台の灯りのように
ゆっくりとした明滅を繰り返す

血の色をした太陽が沈んだのち
深い闇を纏って一隻のタンカーが現れる
タンカーは備え付けられた金属のアームで
発光する箱をすべて甲板へ吊り上げ
海の彼方へ消えてゆく

はちきれんばかりにエネルギーを蓄えた箱たちは
この丘から遠く離れた場所の誰かの手によって開かれる
コンテナに積み込まれた箱たちは
その時が訪れるのを
今か今かと待っている



 起源は、ある事象の結果から振り返って初めて実体を持つ。これまで起源という認識をもって、起源を体感した者はおそらくいないだろう。それは流れる時の中でゆったりと発展していくもので、時系列で起源を明確に割り出すことは不可能。
 しかし、人類は合理性を追求するあまり、事象に先立つ起源そのものを物質化。培養を始める。フラスコの中でメカニズムを解明された起源は、工場で大量生産され、海を臨むさびれた丘に運ばれる。
 信号で止まっている自動車が、発進時に一番ガソリンを必要とするように、物事が動き始めるとき、そこには膨大なエネルギーが渦巻いている。雨、風、波、雷鳴、月光、陽光……箱の形を借りた起源は、この丘でこれら自然現象からそれぞれの起源に適した養分を抽出する。
 はちきれんばかりにエネルギーを蓄えた箱は、海を渡って世界各国に散ってゆく。圧倒的なスピードをもって疾走している近現代。“時代”は、箱がもたらす起源の氾濫によって、さらにスピードを増してゆく。
 起源は人工的に生み出されている。誰の目もないさびれた丘で。

2012年7月21日土曜日

展示についての告知

LiveBar TANIMACHI BARRACCUDA[谷町バラクーダ]さんにて、
文章を展示していただいております。
展示期間は 7月20日 ~ 8月23日 までです。
私のほかにRoots Connectionの写真家2名も一緒に展示しております。

今回のテーマは“起源”。
近くにいらした際は、是非足をお運びください。

また、今月からRoots Connectionホームページ内の“Space”にて、
月に一度文章をアップいたします。
そちらの方も併せてよろしくお願いいたします。

Roots Connection HP
http://roots-connection.com/#/2

谷町バラクーダ
http://r.gnavi.co.jp/kaf5600/map/
大阪市営地下鉄谷町線 谷町4丁目
大阪市中央区徳井町1-1-7
お店は18:00から24:00まで営業
ラストオーダーは23:30
(ここ谷町バラクーダは担々麺が絶品)

「枯渇」

Roots Connectionの写真家、嶌原佑矢さんがニューヨークで撮影された写真に添えた文章です。
LiveBar谷町バラクーダにて、6月15日から7月19日まで展示していました。




   「枯渇」

夜に溶けゆくネオン
風にはためく星条旗の影
天を穿つ塔
その谷底で繰り広げられるドラマ

あまりに典型的なその都市の姿は
彼女の中の現実感を次第に蒸発させていった

朝日を浴びたときの清々しさや
呼び立てる電話のベルの騒々しさや
そうしたものが一枚一枚剥がれていって
後にはのっぺりとした黒い楕円形の塊だけが残った

黒い楕円形の塊は渇いている
とても渇いている
カラカラに渇いたそれは潤いを求めて
水の中の都へ飛び込んだ

塊は水面に触れると
溶けるように姿を消してしまった
水面は飛沫もあげず
波紋も生まず
まるで何事もなかったかのように
穏やかなさざ波をたたえている
その奥には何万回も濾過されて
青以外の全てのものを濾しとったような
純粋な青が広がっている

塊はもうどこにもない
彼女は行ってしまったのだ
みなもに映る
もうひとつのマンハッタンへ

2012年6月26日火曜日

フリーペーパー「夜葉」についての告知



告知つづきです。

総合芸術誌「夜葉」というフリーペーパーに、私の作品が掲載されています。
またまた写真家、嶌原さんとの合作です。
今回は、嶌原さんが某廃墟で撮影された写真に、
私がお話をつけた形の作品になっています。

タイトルは「反響する眼差し」。
「夜葉」は私の手元にもございます。
入手をご希望の奇特な方は、こちらのアドレスまでご連絡ください。
igniss_ic@yahoo.co.jp
直接お渡しするか、宅配便で送りつけるか、なんとかしてお渡しします。

また、フリーペーパー「夜葉」配布にご協力いただける、
奇特なお店も随時募集しております。
何か情報がございましたら、ご提供よろしくお願い申し上げます。

「夜葉」オフィシャルブログ
http://yoruha000.exblog.jp/

2012年6月16日土曜日

展示についての告知

写真作家の嶌原佑矢さんが、
Live Bar谷町バラクーダにてニューヨークで撮影された写真を展示されています。

それに便乗して、
私も嶌原さんの写真にまつわる文章を展示させていただいております。
近くにいらっしゃった際に、足を運んでいただければうれしく思います。
期間は7月19日までです。

谷町バラクーダ 詳しくはこちら
http://r.gnavi.co.jp/kaf5600/map/ 
大阪市営地下鉄谷町線 谷町4丁目
大阪市中央区徳井町1-1-7
お店は18:00から24:00まで営業
ラストオーダーは23:30
(ここ谷町バラクーダは担々麺が絶品)

2012年4月18日水曜日

全ては押し流される


我々もまた、空白に向かって流れる大河の一滴にすぎぬなら、その軌跡で何を描こうか。

2012年3月31日土曜日

たわむのさ


腕を雫に穿たれて、脚を汚泥に掴まれて、終焉の淵へ沈んでも、三日月の下踊るのさ