2012年11月6日火曜日

「永遠の命」


この四角い箱と外の世界をつなぐ唯一の窓
かつてはここから顔を覗かせていた子も孫も
今は枯れ木のように老いさらばえて
私と同じように生命維持装置の中に横たわっている

遠くのほうで風が唸っているのは錯覚で
風の音の記憶が脳内で勝手に再生され続けているにすぎない
耳は200年ほど昔に壊れてしまった
匂いも、肌を通しての刺激も、感じなくなってから久しい
味覚に関してはまだ機能しているかもしれないが
もう300年も食事をしていないのでわからない

そしてついさっき、私の中の決定的な何かが切れて
もう決して晴れることのないであろう闇が目の前を覆った
外の世界から隔離された、完全な肉の塊になってしまったのだ

音もない、光もない
何かしらの理由で、左腕の管から補給される養分が滞るまで
永遠の闇の中を、意識だけが彷徨い続ける

これは棺
そう、プラグに繋がれた棺桶だ