2014年5月12日月曜日

自分のアゴを巡る考察

鏡に写った左右反転の自分の像は、脳が勝手に醜い部分を修正した、通常より3割美化されたものだと聞いたことがある。僕の脳内フィルターの場合、修正ポイントはアゴらしい。

左右が正しく写っている写真なり映像なりを見るたび「自分はこんなナスビみたいにもっちゃりしていない」と、自分のアゴを中心に不快感や不信感を覚えている。(鏡の中の自分は適度な刺激を含んだ端正なアゴをしている)

さらに最近思うに、アゴが伸びている。昔の写真と比べても、それはもう確実に伸びている。顔面を真横から見た場合、三日月でいうところの下の弧の先端部分が、上へ上へと突き上げてきている。だから正確には、アゴが巻いてきていると言った方が正しい。

インドネシアのジャワ島に住む、バビルサというイノシシのような珍獣は、伸び続ける自分の牙が額に突き刺さって死ぬことがあるという。僕には昔から、何か50歳になる前に死んでいる予感があるのだけれど、ようやく理由が解った。

僕は40代の後半、巻いた自分のアゴに脳髄を貫かれて息絶える。これはどうやら、避けられない運命らしい。

▲バビルサ。己の命をも脅かす牙の用途は未だわかっていない…

2014年5月2日金曜日

第二回京都国際写真祭・KYOTOGRAPHIE

春の陽気の鴨川沿いを、風を切って進むのは気持ち良かった。

先日、京都国際写真祭・KYOTOGRAPHIEへ足を運んだ。KYOTOGRAPHIEは春の京都市内を舞台に、伝統文化と現代アートの融合を図る国際写真フェスティバル。公式サイトはビジュアル重視で少し分かりにくいが(しかもちょこちょこ閲覧不能になる http://www.kyotographie.jp/)、9カ国の名だたる写真家たちが、京都の各地でイケてるお写真飾ってまっせっていうイベント。第二回を迎える今回は「Our Environments ~私たちを取り巻く環境~」がテーマ。

展示会場は15カ所。京都駅ビルや廃校を利用した芸術センター、古民家を改装したギャラリー、世界遺産・下鴨神社境内などさまざまで、古都・京都と作品が織りなす新鮮な空間を楽しめる。会場の距離はそれほど離れていないので、レンタサイクルで回った。京都の街の構造上、道に迷う心配も少ないし、借りた場所と違う店舗で返却できるサービスもある(レンタサイクルえむじか http://emusica-dmcy.com/)。なにより、寄り道しながらゆっくり街を堪能できるのでおすすめだ。

以下、回った7つの展示を簡潔に紹介する。数字は会場に割り振られた番号。

3「Supernature フランス国立造形芸術センター(CNAP)コレクション」

作家:マルセル・ディナエ、ミカエル・フォン・グラフェンリード、アドリアン・ミシカ
会場:京都芸術センター(廃校)
・複数の映像作品を展示
・会場の明倫小学校跡は、細部に凝った意匠が施されている。
・吹き出す天然ガスにより燃え続ける、大地にあいた大穴の映像。かつて、炭鉱内に充満したガスを燃焼させるために火を放ち、天井が崩落したもの。有識者の計算では1カ月で燃え尽きるはずだったが、現在に至るまで何十年も燃え続けている。(教室跡)
・生命の根源である、沸き出す泉の映像(茶道室?)
・南国の浜辺にそびえる巨大な朽木と、人々の関係を撮影した映像。直前に重い作品を見て沈んでいたので、非常に癒された。(階段踊り場)

5「眼から心への細糸」

作家:スタンリー・グリーン
会場:誉田屋源兵衛 黒蔵
・町家風の会場。巨大なレンガの円柱に蔵が突き刺さったような建物。
・駐輪禁止……
▲のれんの奥に例の蔵がある

▼同じ通路。天井が抜かれている…のかなぁ?

・海面上昇により、伝統的な狩猟生活の危機に瀕するイヌイットの写真。それでも彼らは数々の犠牲を払いながら狩猟を続けている。傾いた陽を浴びて金色に染まる氷の大地は美しい。
・世界各地の戦争写真。上階には作者自身の半生を描いた短い映像作品がある。連射される機関銃の音が、今も耳にこびりついて離れない。


6「火星 - 未知なる地表」

作家:グザヴィエ・バラル
会場:京都文化博物館 別館
・NASAの衛星によって撮影された、高解像度の火星の地表写真。足下には天文学者による、科学に基づいた地表の解説が添えられている。
・地表写真とアーティスト・高谷史郎がコラボレーションした、映像インスタレーション作品がある。会場には無印良品のいわゆる「人間をダメにするソファ」が設けられており、映像を星空のように見上げて観賞できる。また、天井から吊られた4体の全方位スピーカーにより、どの方向からも均等に音が聴こえる工夫がなされている。ずっと眺めていると、宇宙の誕生、0から1が生まれる瞬間に立ち会っているような気分になる。

7「More Than Human」

作家:ティム・フラック
会場:嶋臺(しまだい)ギャラリー
▲ビルが建ち並ぶ大通りに突如現れる嶋臺ギャラリー

・動物や昆虫たちの写真。
・今回一番の目玉なのか、市内に貼ってあるKYOTOGRAPHIEのポスターにはここのホワイトタイガーの写真が用いられている。
・「More Than Human」のテーマ通り、額縁に納められた動物達の表情は人間以上に……。
・神秘的で、禍々しく、哀愁を湛えた瞳は愛おしい。
・凛々しく、蠱惑的で、訴求力に満ちた個の肉体が躍動している。
・上のような、時には相反する感情が、次から次へと浮かんでは消えていった。
・総括すると、すばらしいの一言。

9「Where We Belong」

作家:瀧澤 明子
会場:虎屋 京都ギャラリー
・約150年前フランスで生まれた、コロタイプという技法で印刷された写真。
・建築家・内藤廣氏が手がけた喫茶併設のモダンな会場。ヨウカンのパイオニア・虎屋が運営する。
・写真の中の人々は、あちらの世界とこちらの世界の狭間を彷徨する住人のよう。こちらは果たしてこちらなのか。あちらがこちらで、こちらがあちらなのか。その境界は実に曖昧で不確かだ。

10「STILL CRAZY nuclear power plants as seen in japanese landscapes」

作家:広川 泰士
会場:下鴨神社 細殿
▲細殿の外観。KYOTOGRAPHIEの赤いのぼりがはためく

▼中はすえた木の香り。柱には虫に食われた跡があった 

・この細殿、普段は入れなさそう。
・おもに20世紀に撮影された、日本の原子力発電所の写真。
・以下、作者コンセプトを一部拝借させて頂く。半減期(放射能が抜けるまでの期間)214万年の物質を含む高レベル放射性廃棄物を、後世に残す。我々はその責任を負えるのか?ウラニウムはネイティブな人たちの聖地を暴いて採掘されたものもある。いっそ、核廃棄物保管場にしめ縄でも張り巡らして聖地とし、後世の世代へ「決して近づいてはいけない、掘り返してはいけない」と、言い伝えでも残したらどうだろうか。後の世代が存在していればの話だが。
・上記の原発と放射性廃棄物への秀逸な皮肉と、採掘場となったネイティブの聖域、会場である下鴨神社の境内が「聖地」という点で呼応している。
・KYOTOGRAPHIEには多数の大企業が協賛として名を連ねている。経済に疎い私の中には、経団連をはじめ大企業には原発推進派が多いイメージがある。もしそうだとすれば、原発再稼働を推し進める企業の出資によって、反原発の写真を展示していることになり、これもまた皮肉なことだと感じた。
・ここで昼食を摂った。鶯の声を聴きながら、新緑からのぞく木漏れ日のなかで食べるパンは最高だった。

11「Supernature フランス国立造形芸術センター(CNAP)コレクション」

作者:マリア・テレザ・アルヴェス、エリック・サマック
会場:アンスティチュ・フランセ関西
・トカゲの皮膚を接写で撮影した映像。ものすごい立派な解説が添えられているが、トカゲ好きなだけちゃうんか。(スタッフの方によると作者のトカゲ愛は常軌を逸しているらしい)
・セネガルの路傍を定点観測した映像。ヘッドホンを装着するも音声がスペイン語で全く理解できない。スタッフの方に話を伺ったところ、この地には家畜を風葬する習わしがあった。しかし、その習慣は時代とともに忘れられ、風葬の地はただの空き地になってしまった。そこを作者が撮影し続けるとどのような変化が起きるか、という実験的な映像らしい。結果は……現地でご覧ください。
・会場は洋館といった感じ。1階にはカフェがあり、これは一緒に回った知人が気づいたのだが、BGMが流れていない。自然光のみのやや薄暗い部屋で、人々の話し声や食器の音が高い天井にこだまする。文字にするといかにも息が詰まりそうだが、開放的で押し付けがましくない自由な空間に感じた。


以上の7会場をゆったり回って、所要時間は6時間ほど。1日で全て見るのは厳しいかもしれない。ただ、これを書いたのは巡ってから1週間後になるのだが、今も作品の様子をありありと思い浮かべることができる。私は普段一晩で忘れてしまう場合あるので、それだけ刺激的な展示だったのだろう。第三回も楽しみ。京都国際写真祭・KYOTOGRAPHIEは15会場のほかにも「KG+ Kyotographie satellite event」と銘打った、51会場、約200人のアーティストによる写真にまつわる催しがあるらしい。

会期は2014年5月11日(日)まで。
印象深い良い一日だった。

最後にもう一度貼っておきます。
http://www.kyotographie.jp